秋風が気持ちいいこの時期、汗をかく登山はこのくらいの季節が一番快適だったりします。
紅葉のシーズン到来。

今年はどこの鮮やかな木々を見に行きましょうか。紅葉見物が好きなあなたもいくつかのスポットをピックアップしている事でしょう。
ところで。
登山を長くしてきているハイカーの皆さんは、多分楽しい思い出の他にも山ならではの怖い思いを何度か体験しているのではないでしょうか。
特に生き物って登山にはつきものですよね。
おのれ・・・スズメバチ・・・。
蜂はもちろんのこと、蛇、アブなど小さくて煩わしいものから、イノシシのような大きくて威圧感のある動物まで。
クマなんかに出くわそうものならどんな緊迫感に襲われるか。
(最近全国的に熊の獣害事件が深刻で登山も慎重にならざる負えません)
画面越しには愛嬌のある鹿もいざ遭遇してみると雄々しいツノに圧倒されそうになります。

こわい。
でも幸いクマやイノシシまでの厄介な相手には会ったことがありません。
しかし全くこわい思いをしたことがないと言えばそんなことはなく。
自分が今まで一番恐怖を感じた山の生き物は、
猿です。ウキ。
気をつけろ。秋の御前山には奴がいる。
あれはちょうど一年前。
紅葉の秋登山を堪能しようと、未だ登ったことのない奥多摩の御前山を訪れました。

奥多摩は先に紹介した高尾山ほどには親切な山は少なく、

ちょっとマイナーな山なら麓はおろか、頂上にも標識があるだけの味気ない山もいくつかあります。
御前山は奥多摩駅からバスで少し行ったところに登山道がある結構遠い山ですが、登山道は整備されていて、避難小屋や簡易トイレも途中から山頂まで配慮されている人気の山。

トイレの近い私にはちょうどいい山です。
しかし登山道までが非常に遠い。
民家や施設がありアスファルトで舗装されているので楽ですが、結構な距離を登ります。
登山道の入り口に差し掛かったあたりですでに陽は高くなってしまいました。
急がねば。奥多摩湖に抜けるまで意外に時間がかかる。
天候は穏やかで足取りは快適。
それほど苦労せずに御前山の山頂に到着しました。
?でっかいう◯こ。クマでも鹿でもない人のようなう◯こ。

素晴らしい景色を見ながら昼食を食しますが、気になることがひとつ。
さっき頂上寸前の階段を上がる時何やら立派なう◯ちが階段の真ん中に
でん!
と横たわっているのを思い出します。
食事中の方すみません。
最初これまさかクマのものじゃないか、とギョッとしたのですが、マンガ「熊撃ちの女」
で見たあれとはちょっと様子が違う。
クマのはもっとボテっとしたずんぐり型のそれ。
対してさっきのは朝のトイレで毎日顔を合わすそれとそっくり。
ヒグマとツキノワグマでは違うのかもしれませんから油断は禁物ですが、
・・・・ひょっとして登山者の誰かが我慢できなくて野糞したのかも・・
となぜか勝手に思い違いをしてしまいました。
この時の私にはヤツの存在が頭からすっぽり抜け落ちていたのです。
今まであまりそういう場面に遭遇してことがなかったので学んだことを忘れていました。
秋の山はハイカーにも快適で魅力的なものですが、
山の動物たちもまた秋の果実を堪能するために活動的になるということを。
四方八方に猿。そして登山道の真ん中に陣取るボス(推定)
休憩も十分にとり、早速奥多摩湖方面に下山すべく標識を頼りに歩を進めます。
ガサガサ。
何か騒がしい。
小猿が登山道の外れをかけていきます。餌場を巡って猿が奇声をあげて喧嘩しているようです。

おお、猿。初めて見た。
正確には養老渓谷や日光の猿は見たことがありますが、街中や民家のある中でしかも遠くの安全圏でしか見たことがありません。
山の中でしかも眼前の遭遇は初めて。
この連中は遠巻きで近づいてくる様子はなく、それほど恐怖を感じることもなく呑気に様子を眺めていました。
そうか、あの立派なあれはこいつらだったのか。
人に近いからあれの形も近いのは当たり前か、と納得しました。
とその時。
登山道のちょっと先にいかつい背中がどっしりと腰を据えているのが目に入ります。
おいおい。
周りを駆け回っている連中よりも二回りくらい大きい猿が秋の恵みであるどんぐりをゆったりむしゃむしゃと頬張っているではありませんか。

その大きさにちょっと怯む私。
早よどいてくれんかね。
近づけばあっちへいってくれるかと期待して足を進めてみますが、

明らかに威嚇してくるではありませんか。しかもちょっとこっちのこと舐めてるような落ち着きっぷり。
しかも前後には運悪く登山者は私ひとり。なんでやねん。
山頂には結構人はいたのにこういう時に限って人がやってきません。数で押せばどいてくれる可能性もあるのに。
思わぬところで思わぬ時間を食う羽目になってしまいました。がっぷり四つの睨み合い。
と不意に、猿の方から登山道の道を示す杭の部分にヒョイっと登り、
トトトッ
とこっちに向かってくるではありませんか。
猿とノビの御前山頂上付近決戦(という名の道の取り合い)始まる。
とっさに持っていたトレッキングポールを天高々と振り上げる私。
さながら土佐藩主前の御前試合の坂本龍馬のごとく片手上段のポーズをとって威嚇します。気持ちだけ飛天御剣流(貧弱)。
猿はピタッと足をとめ、こちらの様子を伺います。まるで剣豪同士の対決のような息を呑む気の競り合い。フォオオと呼吸を整え猿を威嚇しそれ以上の接近を食い止めつつこの状況を打開する方法を模索します。つか早く誰か来い。イヤこのうろたえた様を見られるのも恥ずかしいといえばそうなんですけども。
猿は高所に位置している余裕から澄まし顔でこちらを眺め、まるでふふんという嘲笑すら感じられる人を小馬鹿にしたムカつく表情。こちらも背中に伝う汗を感じながら後退りしなんとか自分の有利な展開に持っていけないものかと場所を変えます。周りはチンケな猿供が駆け回りまるでこの対決を煽っているかのようにキャッキャと囃し立てます。ボス猿はこっちが一歩下がることに杭を一本進め間合いの均衡を保つつもりの模様。やめてください日が暮れてしまいます。
どれくらいの時間が経ったのでしょう(その間登山客は全く来ず)
やがて根くたびれしたのか、それとも腹が減ったのか。
杭から降り再びどんぐりを拾い食い始めるボス猿。登山道の真ん中で。
いやどかんのかい。
猿に阻まれ、40分も下山のロスをする

結局一時的に山頂まで戻ってきてしまいました。
チクショウ。別に負けたわけではない。戦略的撤退。
そこからしれっと他の登山客に混じり再びボス猿のもとへ。
恐る恐るその場所へ近づくが、ボスザルの姿は見えず。流石に撤退したらしい。
はーよかった。
しかし思わぬ時間のロス。実に40分。
ただでさえ遅れていたのに予定が大幅に狂ってしまいました。
急げや急げ。
ゆったり登山のつもりが帰りは思わぬスピードハイクになってしまいました。
また猿に出くわしたらと思うと気が気でない。
御前山の下山路は決して安全な道ではないのですが、かなりペースを上げて奥多摩湖方面に下山していきました。
なんとか日が暮れる前に(というかバスが無くなる前に)。
山では何があるかわからないという意味を本当にわかった話。
天候不順や迷い道も非常に厄介な山のトラブルですが、
生き物のトラブルもとても恐ろしいです。
今回は威嚇された程度で済んだ話ですが猿といえど人間より遥かに敏捷性も筋力もあり、鋭い犬歯も持ち合わせています。
所詮人間は山はどんなに登り慣れていてもお客様側。
そこを棲家としている動物たちに文句を言う筋合いはないわけで、そこはうまくやっていかなければならない話ではあります。
蛇に、蜂に、ヒルに、クマに、そして猿に。
お互い穏便に済むような付き合い方(できれば遭遇しない)をしていきたいものです。
今回はとってもマッチョな猿のお話でしたが、猿にも地域ごとの個性はあるようで、
日光の猿はルパンのような猿が多いです。
以前旅行に行った際もお土産物屋の銭形のとっつぁん(あるいはかあちゃん)と追いつ追われつの逃走劇を繰り広げていたのを目撃したことがあります。

あれぞライバル、好敵手。自分などまだまだ。精進せねば。