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成瀬は天下を取りにいくー成瀬に学ぶ成功者の道【書評】

成瀬は天下を取りにいく書評
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久々に書店に本を買いに行ったとき、新刊の平積みの棚に並んでいた小説が目に止まる。

「成瀬は天下を取りにいく」

ノビ

タイトルだけで勝確ですやん。

久々にタイトル買いをしてしまった。しかも青春小説なんていつ以来か。

普段は歴史小説、お仕事系、金融小説しかほぼほぼ読まないオッサンが何を思ったのかビジネス書と雑誌の間に挟んで若干の気恥ずかしさを交えつつレジに並ぶ。

最近は物語を読む暇もなかったが、一気に読んでしまった。

読んでの感想。久々に濃いキャラ(いい意味で)に出会ったなと思う。

とってもいい小説だったのでなるべく細かいネタバレは避けたいものの、この物語は成瀬のキャラクターに触れざる負えず、その主人公が9割方小説の魅力を支えてるのでネタバレを避けたい人はぜひ買って読んでから記事を見てほしい。

今回の書評は物語にフォーカスするのでなく、本当に成瀬が「天下をとれる」人なのかを検証していきたい。

ノビ

ちなみにこの記事全体がなんとなく若干成瀬口調。影響されまくり。

主人公「成瀬あかり」の人物像

成瀬あかり滋賀県に住む14歳の女子中学生として物語はスタートする。

小さいころから文武両道、他の同級生とは一線を画していた。

何をやってもうまいし、運動神経も抜群。何でもできてしまうところから、幼少時は周りに羨望のまなざしで見られるが、他人を寄せ付けないためやがて孤立してしまう。

こう書かれると冷たい秀才のイメージを想像するが、成瀬は飄々としていて周りに自慢することも鼻にかけることもない。

この主人公は周りにどう思われてるかよりも自分の興味あることに傾倒してしまう性質なのだ。勉強も技能を極めるのもとにかく好奇心の行動の一環でしかない。

かといって自分にしか興味がないのかといえばそうでもない。

地元愛に溢れているし、彼女なりのやり方で周りの人間とつながっている。

そのつながりのエピソードとして、

  1. ありがとう西武大津店・・・夏休みを使って閉店する地元のデパートに通い詰める話
  2. 膳所から来ました・・・M-1グランプリを目指し漫才コンビを組む話
  3. 階段は走らない・・・①の裏舞台のお話。主人公は傍流
  4. 線がつながる・・・高校進学直後のあれこれ話。
  5. レッツゴーミシガン・・・かるた部の大会で他校の男子に一目惚れされる話
  6. ときめき江州音頭・・・大学進学を控え、親友と袂を分かつことになる話

という6つの物語で構成され、それぞれ主人公を見る人間の視点が変わって描かれていく。

①と②は島崎みゆき。成瀬の幼なじみで同級生であり、唯一無二の理解者。

③は稲枝敬太。大阪でWeb会社に勤める40代の男で主人公の地元の小学校の卒業生。

④は大貫かえで。成瀬の中学からの同級生だが高校まではほとんど接点を持たなかった。

⑤は西浦航一郎。広島の高校のかるた部に所属する高校二年生。

⑥は成瀬あかり本人の視点で物語が進行する。

どのエピソードでも成瀬のキャラクターは当然ながらまったくぶれていないのだが、親疎や立場の違いから成瀬に対しての感情や見方、受け止め方が微妙に違うのが面白い。

ノビ

視点が変わっていくことで読者自身も成瀬に対しての印象がどんどん変化していくよ!

親友の島崎みゆきから見た成瀬あかり

①と②の視点である島崎みゆきの視点が最も成瀬の個性を正確にとらえていると思う。

島崎いわく「いつだって成瀬は変だ」という一方で、

「成瀬あかり史をできるだけ最後まで見届けようと誓う」ほど主人公を認めているいわば理解者的な立場にある。

かといってこの二人がよくある青春小説の「親友」なのかどうか。

幼なじみなのに二人とも成瀬、島崎の苗字呼びだったり、小学校5年生の頃は同級生に無視される成瀬をわが身可愛さに知らんぷりしていたりして、なかなか絶妙な関係にある。

ノビ

現代っ子らしいちょっとドライな親友像。

最も、作中でも成瀬は‟あかり”という素敵な名前がありながら、親族か年の長けた大人から以外ほぼ呼ばれることがない。

この本のタイトルも、

「あかりは天下を取りにいく」とか

「成瀬あかりは天下を取りにいく」

だとなんとなくしっくりこない。

成瀬、と苗字呼びされるのがふさわしい雰囲気を主人公は持っている。

その理解者である島崎は成瀬は奇行癖、大風呂敷の癖があるという風に思っている節がある。いうことやることがいちいち突飛で、スケールが大きいと。

成功者との共通点その①行動力がある

①と②の2つのエピソードで成瀬は「夏の終わりに閉店する西武大津店に毎日通う」と「漫才でM‐1グランプリに出る」という行動を起こす。

島崎はそれに巻き込まれ、付き合わされることになるのだが、

この物語を通して成瀬が積極的に自分の奇行に巻き込むのはこの島崎だけだったりする。

それだけでも二人の関係性がうかがえる。

とはいえ発案者は常に成瀬で、閉店する地元の百貨店に毎日通うはともかく、女子中学生の身でM-1グランプリに出るという発想はなかなか思い至らない。

しかも別にお笑いが普段から格別好きだとか言うわけでもない。

成瀬が行動する原点は好奇心からくる検証と、人生に何らかの爪痕を残すという2つの理由からなのだ。

彼女いわく、『大きなことを百個言って、一つでもかなえたら「あの人すごい」になるという。だから日ごろの種をまいておくのが重要』なのだそうだ。

これに近いことを歴史上の勝者や、経営の成功者たちは異口同音に発言している。

ノビ

成瀬は一見突飛なことをしているようで、非常に戦略的な部分がある。人にどう見られるか、どう思われるかを意識して行動している。

稲枝敬太から見た成瀬あかり

稲枝敬太は作中の主要人物の中では主人公と最も関係性の薄い人物の一人だ。

が、③の「階段は走らない」では①の「ありがとう西武大津店」の裏エピソードとして主役の役割を担っている。後に成瀬と知り合いになるもののこの時点では

「ライオンズ女子」

として西武ライオンズのユニフォームを着た成瀬をTV中継で見てTwitterで注目していることを発信するという関係性ににすぎない。

しかし成瀬側の立場では毎日閉店まで西武大津店に通ったことが、見ず知らずの人に認識されていたことの意義が大きい。

意図の通り世間にわずかでも爪痕を残した。

成瀬と同じく稲枝にとっても西武大津店は懐かしい子供時代の思い出がたくさん詰まっている。だから閉店のカウントダウン中毎日足繫く通う成瀬の姿を見て何事かを感じた。

稲枝にとって成瀬は地元愛の強い、ちょっと癖のある女子中学生に映っただろう。

成功者との共通点その②企画力、執着力がある

ここまでのエピソードの通り、成瀬は行動力もそうだが、非常に企画も斬新で独特だ。

普通に将来何かを成し遂げたいというなら勉学や運動に励めばいいだけなのだが、

シャボン玉を極めてみたり、

けん玉をふりけんまでやれるほどやりこんでみたり、

人前で手品を披露してみたり、

絵や短歌で表彰されるほどに凝ってみたりする。

地元のデパートの閉店カウントダウンのTV中継に毎日映り続けたり、島崎を相方に漫才コンビ「ゼゼカラ」を結成してM-1グランプリに挑戦したりもする。

高校進学した際にもそれまで続けていた陸上を辞めかるたをクラブ活動として選択する。とにかく幅が広い。

そして極めきれずともある程度いい線まで必ずもっていく。

大貫かえでから見た成瀬あかり

その高校編の④「線がつながる」で登場するのが同じ中学出身で進学先のクラスメイトとなる大貫かえでである。

大貫は成瀬に対して批判的で嫉妬ややっかみもあり、関わり合いになりたくないという成瀬の周りにいる大多数の人代表だろう。

彼女は成瀬と違い、周りの人間の相関図を仔細に把握し、叩かれたりはぶられたりしないよううまく立ち回ることを重視している。

自分の意志を持ち、自由にふるまう主人公と合うはずもなく、成瀬を避けつつ高校生活での自分のポジションを確立しようと模索して時に成瀬に振り回される。

大貫は人間関係の立ち回りは観察の努力のわりにあまりうまくない。

そのせいもあって自分の長所でもある勉強を頑張ろうと思い、東大を目指すようになる。

ある時その東大のオープンキャンパスに視察に行ったとき、たまたま同じように見学に来ていた成瀬と出くわす。

その時の主人公とのやり取りで相変わらず反発や嫉妬を持ちつつも、否が応でも同郷の親近感や共感をわずかながらに感じてしまう。

親しくなくとも長い時間同じ街で過ごしたという感傷を、東京という異郷で成瀬に抱いた大貫はそれ以来彼女と少しだけ「線」をつないだ。

ノビ

見知らぬ土地での成瀬の強烈なキャラクターは、普段疎遠にしている知人ほど響きやすいのかもしれない。

成功者との共通点その③使命感が強い

成瀬という少女は多くの周りの人間から変人に見られている。

が、言動の端々から彼女の行動原理や理由が地元愛からきていることが伝わる。

中学生、高校生の行動力が自分の土地の範囲から出難いといえばそれまでだが、決してそれだけでない。

  • 西武大津店の閉店に感傷的だったり
  • 将来地元の町にデパートを立てると宣言したり
  • 漫才のコンビ名に最寄り駅を取り入れたり(最終的なネーミングは島崎が提案したが)

彼女の行動のスケールからすると信じられないが、地元に強烈な愛着を持って日々を過ごしていることがわかる。

それが顕著に表れているエピソードが⑤のレッツゴーミシガンだろう。

西浦航一郎から見た成瀬あかり

西浦航一郎は広島県の高校2年生のかるた部員だ。

滋賀県の高校かるた選手権の大会会場で同じくかるた部員だった成瀬の試合を一目見て、そのオーラや立ち振る舞いに惹かれてしまう。

友人の中橋結希人の強引な仲介もあって成瀬に直接話す機会ができるのだが、その際成瀬から琵琶湖の遊覧船「ミシガン」に同乗しないかと誘われる。

西浦にとってはデートのお誘いのようなものだが、成瀬からしてみると他方から来た「旅の人」をもてなすという気持ちが強い。

自分の住んでいる大津市民憲章に書かれている『あたたかい気持ちで旅の人をむかえましょう』を忠実に守っている。誰から強要されているわけでもなく。

福引で当てた遊覧船の招待券を西浦達に進呈したり、自分の乗船料の一部を負担すると申し出られても

「その分を大津みやげでお金を落としていってくれればいい」とやんわりと断ってしまう。

地元にデパートを立てると宣言したときもそうだが、彼女はごく自然に郷土に貢献するという使命感を持っている。

成瀬のバイタリティーやスケールの大きさと矛盾するように地元に密着して生活しているのが面白い。

ところでこのエピソードでは初めて成瀬を明確な「女性」として描写している。

それまでは容姿や美醜についてほとんど触れられていなかったが、西浦という同年代の男性に好意を向けられるこの章はところどころに成瀬の女性らしさが際立つ。

過去の写真を見られてマスクを外した方がかわいいな、と思われたり、

水色のワンピースと麦わら帽子の夏らしい装いで現れたり、

好きと告白されて「不思議な気持ちだ」と照れたように目をそらす仕草をしてみたり、

握手した手を「思った以上に小さくて頼りなく感じた」と描かれたり。

成瀬はこれまで周りから煙たがれている描写が多いが、西浦からするときっと直接言わないだけで、彼女を好きな人は近くにもいるんじゃないかと推測している。

ノビ

この予想はあながち外れてないんじゃないかと思う。描写されないだけで島崎や西浦のような成瀬好きは他にも必ずいるに違いない。

成功者との共通点その④人間が好き

最後の章「ときめき江州音頭」では主人公成瀬あかりの視点から描かれる。

この章の彼女はどうしようもなく平凡だ。

いや、平凡と言うのは語弊がある。

秀才らしい勉強やトレーニングのルーティーンをストイックにこなしているし、相変わらず地元に貢献する活動に余念がない。

しかしあることがきっかけで彼女の生活サイクルが不調に落ちていく。

この章では彼女が普段どう過ごし、どう感じているのかを初めて具体的に明かされる。

成瀬あかりから見た成瀬あかり

大学進学をまもなく控えた時期に島崎から「東京に引っ越す」ことを告げられる。

中学まで頻繁に一緒にいて、高校で別々になってからも幼なじみとして、漫才コンビの相方としてしばしば交流を持っていた島崎の突然の告白に人並みに動揺してしまう。

いつも飄々、堂々として人間関係に超然としていると思っていた成瀬が実は人とのつながりを大事にしていたことがところどころに描写される。

思えばこのエピソード中に限らない。

成瀬は一度自己紹介されただけで人の名前を憶えてしまう。

嫌われていると思った相手でも自分は嫌いじゃないからとかかわりを持とうとする。

見ず知らずの人が死を考えている様子を敏感に感じ取る。

これらは他人に関心がないとできない。地元愛が強いのも、郷土の風土が好きなのかもしれないが、根本的には町に住む周囲の人間が好きだからではないか。

そして最も親愛の対象だった島崎が遠くに行ってしまうという事実に対して落ち込んだり、今まで巻き込んで振り回してしまったことに対して申し訳なく思ったりする。

漫才コンビ「ゼゼカラ」として地元の夏祭りの司会を引き受けたその準備の中でも、祭りの本番の最中でも早とちりしたり、勝手に落胆したり自省したり感傷に浸ったりして

今までの成瀬と同一人物とは思えない迷走っぷり。

だけどこの人間味のある成瀬こそ、本当の成瀬の姿なのだ。

ゼゼカラは新しい未来への扉を開くかのようにキャッチフレーズを変更する。

「膳所から来ました」から「膳所から世界へ!」

「世界へ!」というキャッチフレーズの通り、本当に彼女は世界の成瀬として羽ばたいていってしまうかもしれない。

逆にもしかしたら案外小さくまとまって地元でちょっとした変わりものとして生き続けるかもしれない。

ノビ

どちらに転んでも成瀬らしい。

ラストで全身全霊で江州音頭を踊るように、これからも全身全霊で生きていくだろう彼女はきっと面白い人生を歩むに違いない。

そのくだりが今後見れるかどうかはわからないが、続編がもし出るのなら真っ先に書店に駆け込んで買おうと思う。

本書がデビュー作であるという宮島未奈先生の今後の活躍にも注目していきたい。

ノビ

あと個人的に島崎の後日譚か別エピソードが見てみたい。成瀬から見た島崎かわいすぎんだろ。

追記:祝、続編「成瀬は信じた道をいく」(著:宮下未奈)2024年1月24日発売決定!

ノビ

マジかよ。成瀬は天下を取りにいくの映像化が先だと思ってた。

なにはともあれ続編目出たい!絶対買います!

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更に追記:本屋大賞おめでとうございます!この作品が評価されていく姿を見れるのが一ファンとしてとても嬉しい。これからも陰ながら作品推しを続けたいと思います!

続編である「成瀬は信じた道をいく」の書評記事はこちらです。

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